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叢書パルマコン03
農の原理の史的研究
「農学栄えて農業亡ぶ」再考
藤原 辰史 著
内容紹介
新たなる<農学>は、この本から始まる!
農業の工業化に引きずられるかのように、農学の工学化がとどまることのない今、果たして工学に従属しない「農学」はどのようにして存在可能なのか、という問いから書き起こす、今までにない農学思想書。「農本主義」の提唱者にして我が国の代表的農学者である横井時敬を軸に、満洲移民政策に深く関与した橋本傳左衛門、報徳思想に傾斜した転向農学者杉野忠夫、ナチス農業政策の満洲移植を試みた法学者川島武宜、公害病研究でも著名な反骨の農学者吉岡金市ら、極めて個性的な農に関わる思想と実践を限界と可能性の視点から詳述。中・東欧やロシア各国の農業政策と農学のなかに日本の農を置き、旧来の農本主義的疑似ロマン主義に流れることなく、医・食・心・政・技を総合する、未来の農学を目指す史的試論。農学を原理的に塗り替えんとする意欲作。もっと見る
目次
■序章 科学はなぜ農業の死を夢見るのか
1 食と農の死
2 北一輝の消化器消滅論
3 農学栄えて農業亡ぶ
4 農学の思想を求めて
おわりに――人類史の臨界点で
■第1章 夢追い人の農学――「チャヤーノフと横井時敬の理想郷
1 チャヤーノフの理想郷
2 日本のチャヤーノフ体験
3 農業経済学者のユートピア
4 労働と科学技術
5 小農経営と自然環境――チューネンを媒体に
6 躓きの石としての文化
7 「台所」と「農業」の廃止
おわりに――「エコノミーとエコロジー」を超えて
■第2章 八方破れの農学――横井時敬の実学主義
1 農界の巨星、墜つ
2 横井時敬とは誰か
3 農学とその周縁
4 農学のかたち――『合関率』から
おわりに――民学の挫折
■第3章 大和民族の農学――橋本傳左衛門の理論と実践
1 橋本傳左衛門とは誰か
2 「目標」なき農民たち
3 チャヤーノフとの対決
4 クルチモウスキーの哲学
5 結節点としての『農業経営学』
6 橋本農学の崩壊
おわりに――共存と発展
■第4章 転向者の農学――杉野忠夫の満洲と「農業拓殖学」
1 なぜ、杉野忠夫か――「マルキストの記憶」と「満洲の記憶」
2 マルクスから尊徳へ
3 満洲移民から海外拓殖へ
4 「農業拓殖学」に埋め込んだ記憶
おわりに――「極重悪人」の農学
■第5章 「血と土」の法学――川島武宜のナチス経験
1 世界のなかの日本とドイツ
2 絶望する農民たち
3 「土地なき民」からの脱却
4 ナチスの世襲農場法――一九三三年九月三十日、ベルリン
5 世襲農場法の思想的源流――ダレーの「血と土」
6 満洲国の開拓農場法――一九四一年十一月十三日、新京
7 世襲農場法から開拓農場法へ
おわりに――満洲の血と土
■第6章 反骨の実学――吉岡金市による諸科学の統一
1 「立派な人」
2 自己形成期――岡山という条件
3 日本農業の機械化に賭ける
4 「東亜」から「戦後」へ
5 スターリニズムに根差した総合的農学
6 公害の学問領域横断的な研究――イタイイタイ病
おわりに――横井時敬との奇妙な類似
■終章 農学思想の瓦礫のなかで
あとがき
註/参考文献/人名索引もっと見る
著者紹介
※著者紹介は書籍刊行時のものです。[著]藤原 辰史(フジハラ タツシ)
藤原辰史(ふじはら・たつし)
1976年北海道旭川市生まれ、島根県奥出雲町出身。2002年京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程中途退学。博士(人間・環境学)。東京大学大学院農学生命科学研究科講師などを経て、2013年より京都大学人文科学研究所准教授。専門は農業史・環境史。
著書に、『ナチス・ドイツの有機農業』柏書房・2005年、『カブラの冬』人文書院・2011年、『ナチスのキッチン』水声社・2012年/決定版:共和国・2016年、『稲の大東亜共栄圏』吉川弘文館・2012年、『食べること考えること』共和国・2014年、『トラクターの世界史』中公新書・2017年、『戦争と農業』集英社インターナショナル新書・2017年、『給食の歴史』岩波新書・2018年、『食べるとはどういうことか』農山漁村文化協会・2019年、『分解の哲学』青土社・2019年などがある。もっと見る
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お客様の声
農の原理の史的研究
投稿者 樋口 康一 / 投稿日 2022/09/12
斎藤幸平,中島岳志,平川克美,藤原辰史,神野直彦,松村圭一郎。コロナ禍の読書はこれまでの社会とは違う新たな何かが求められているという文脈で一貫して私の思考にまとわりついて来たが,自分なりの回答を得られないままでいる。
そんな折,藤原辰史の名前を見かけた。書評である。自治体勤務の農業改良普及員向けの専門誌「技術と普及」の1ページ。紹介者は宇根豊。カリスマ的元普及員であり,実は私の大学院社会人入学の同期生でもある。その本,「農の原理の史的研究」。私は藤原の「縁食論(ミシマ社)」を読んでからというもの,「食の無料化」という言葉に取り憑かれている。これは読まないわけにはいかないと即座に注文した。
読み始めてすぐ,自分の無学を知った。大学は「農学」部を卒業し,就職後は「農学」研究,「農政」に携わりつつ,学位「博士(農学)」を頂いたというのに,藤原の紹介する農学の歴史と社会における役割を全く理解していなかったからだ。不勉強の自分を恥じた。しかし,これは私だけの問題ではないだろう。多分現在日本で農政を担っている農業技術者は,自分が生業としている「農学」・「農政」が何を目指しているのか,どこに向かおうとしているのかイメージできているだろうか。
私には,これまで自分自身が農学,農政に携わる中でずっと感じて来たことがある。
喉の奥に魚の骨が引っかかっている様な感覚。自分自身が何か行動する時,それははっきりとした違和感として常に感じられて来た。しかし,その違和感をうまく説明することはできなかった。本書はその違和感がなんであるかを浮かび上がらせる。農に内在するパラドックスと呪い。それは農そのものに最初からセットされている,農のあり様なのだと気付かされた。本書は自分の思考を映し出す鏡の様な存在となった。
では,私自身は今後,この呪いのかけられた農にどう向き合って生きていけば良いのか。
本書の最後には,藤原は農が進むであろう5つの可能性を示しているが,具体的な形までは描いていない。読者それぞれが新たな農学の構築と実践をせよ,ということであろうか。
今私の興味は,市場経済になるべく依拠しない形で,作物の栽培を可能にし,食を創出し,人の暮らしの改善ができないかというところにある。肥料を使わずとも野菜が採れる畑があり,そこは快適な空間であり,そこで採れた野菜は店で販売されることなく,お腹を空かした人の胃袋をみたす食事に料理され,提供される。こんなバカみたいな話が実現できないかと日々夢想している。もしこれが実現したら,それは新しい農を構築し,実践したことになるのだろうか。
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