おすすめの新刊や話題の書籍を、教育・図書館関係者さまの推薦のことばとともにご紹介します。
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子どもの本に関わる質問や疑問にQ&A形式でお答えします。内容は月替わりで更新いたします。
※2013年8月刊行『子どもの本100問100答』(一般財団法人大阪国際児童文学振興財団編)より抜粋
(2024.6.18更新)
よく知られている昔話「三枚のお札」は、小僧さんが山のなかで出会った山姥(鬼婆)に食べられそうになり、魔除けのお札の助けを借りながら逃走する話です。絵本や紙芝居にも多く取り上げられ、図書館などのおはなし会でもよく語られている人気作品の一つです。
鬼婆に追いかけられ、食べられそうになるスリルはテンポよく、一方で鬼婆にまったく動じない和尚さんは愉快で、その語り口のおもしろさ・ユニークさが人気の理由の一つでしょう。
『日本昔話通観』全31巻(同朋舎出版、1990)には、全国各地の47話の「三枚のお札」が収録されています。絵雑誌「こどものとも」に「さんまいのおふだ 新潟の昔話」(福音館書店、1985)があるように、新潟を中心とした東日本に分布は偏っていますが、それでも青森・岩手などの東北各地から、北陸、近畿、山陰、九州、沖縄とその分布は全国に及んでいます。「地蔵」(笠地蔵)の33話と比較しても、この昔話がいかに多く語られ、そして広く伝播していったかがわかります。また、『日本昔話通観 研究編2 日本昔話と古典』(1998)では、類話として『古事記』上「黄泉国」や、『日本書記』『和漢三才図絵』なども指摘しており、古くから語り伝えられてきた昔話であるようです。こうした昔話が各地の語り手によって豊かに語り継がれ、そのなかで多くのバリエーションが生まれ、絵本などにもとりあげられるにいたって、現代においても広く知られる人気の物語になったものといえます。
もっとも多く採集されている新潟の昔話(『日本昔話通観10 新潟』)から、「三枚のお札」の典型話(逃走型)をみておきます。
和尚さんに山へ栗拾いに行けと言われた小僧さんが、山奥は鬼婆がいるから嫌だと断りますが、和尚さんはそれをなだめ、魔除けのお札を3枚くれます。小僧さんが栗を拾って山奥へ分け入るうちに日も暮れ、仕方なく一軒の家に泊まらせてもらいますが、それが鬼婆の家。食われそうになりながら逃げ、自分の後ろにお札を投げます。それが大川、砂山、大火事になり、鬼婆の追撃をかわし、最後はお寺に逃げ込んで助かります。
上記に加えて、新潟だけでも四つの異なるパターンがあり、それぞれ山へ行く理由(取りに行くもの)や展開、結末などが異なります。たとえば、井戸死型では、小僧さんは山へ彼岸花を取りに行き、逃げ込んだ雪隠で神様からお札をもらいます。結末では、追ってきた鬼婆は井戸に映った自分を見て飛び込んで死んでしまいます。一口型では、寺まで追ってきた鬼婆に対峙した和尚さんは、小さなものに化けてみろといい、豆粒になった鬼婆を餅に挟んで食べてしまいます。退治型、耳切型はいずれも寺にやってきた婆と和尚のやりとりが異なっています。前者は、鬼婆が和尚に小僧が寺にいなければ自分を臼で挽け、寺にいれば自分が和尚を臼で挽くといいます。後者は、和尚が寺に逃げ込んできた小僧の全身にお経を書いて姿を見えなくするのですが、耳にだけ書き忘れたため、婆がそれを持ち帰り、以降小僧は耳なし和尚となった物語です。和尚さんと小僧さんの関係、和尚さんの存在や鬼婆と人間の距離が型によって異なるのと同時に、怖さとユーモアのバランスもちがいます。このほかにも、「鬼の家の便所」などの類似話も多くあります。
外国の昔話では、中国をはじめとするアジア、北米、ヨーロッパ、北欧等に類話があるといわれています。ドイツでは「ヘンゼルとグレーテル」、イギリスでは「ジャックと豆の木」、またトルコの昔話「ケローランと鬼の大女」や、スラヴ民話に登場する妖婆の物語「バーバヤガー」にも通じるものがあると指摘されています。こわさと愉快さをあわせもつところに世界での普遍的な人気の秘密があるのでしょう。
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