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不確かな時代を共に生きていくために必要な「自ら考える力」「他者と対話する力」「遠い世界を想像する力」を養う多様な視点を提供する、10代から読める人文書シリーズ。
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※2013年8月刊行『子どもの本100問100答』(一般財団法人大阪国際児童文学振興財団編)より抜粋
(2025.03.14更新)
アメリカの女性作家ルイザ・メイ・オルコットが1868年*1に出版した『若草物語』は、登場する4人姉妹の個性を生き生きと描いて、今も人気があります。一見ありふれた家庭内の出来事を書き連ねただけのようなストーリー展開ですが、読み進むにつれて読者は、そこに描かれた家庭のあたたかさや家族の絆に胸を打たれることになるのです。こういう形で家庭のあり方を問うた作品はそれ以前にはあまり例がなく、『若草物語』は今日、「家庭物語」というジャンルの先駆的かつ代表的作品といわれています。
『若草物語』には二つの家庭が描かれます。4人姉妹のマーチ家は、貧しいながらも日々笑い声が絶えません。年齢の近い女の子が4人もいればしばしばけんかも起こりますが、姉妹はそれぞれに深い気持ちで互いを思いやっています。
一方、その隣に大邸宅を構えるローレンス家には、両親を亡くしたローリー少年が気難しい祖父と2人で住んでいます。大勢の召使いに囲まれた何不自由ない毎日ですが、彼はいつもさびしくて、楽しそうなマーチ家の様子をのぞき見ずにはいられません。この気弱なローリーとマーチ家のおてんば娘ジョーとの友情は、強く読者の印象に残ることでしょう。マーチ家のぬくもりは、ジョーを通してローリーにも伝わっていくのです。
けれどもそのマーチ家も、いわゆる〈普通の家族〉とは少しちがっています。時は南北戦争の最中、一家は父マーチ氏を従軍牧師として戦地に送り出し、長い間母と娘たちだけで暮らしているからです。父親の不在は、当然、物心両面にわたって、留守を守る一家の暮らしを圧迫しますが、その緊張感ゆえに母娘の絆はなおいっそう強まっていきます。戦地の父に思いを馳せつつ、娘たちは母の的確な指導の下、それぞれ自分の欠点を直そうと、日々努力を続けるのです。そこへ、一番年上のメグの恋愛、作家を目指すジョーの心の葛藤など、今にも通じる思春期の話題を絡めて描いたところに、この作品の大きな魅力があるといえるでしょう。
『若草物語』以降、家庭物語は北米を中心に発展し、『赤毛のアン』(1908年)*2や『大草原の小さな家』で有名な「小さな家」シリーズ(1932-71年)*3など、今も読まれ続けているすぐれた作品が多数生まれました。しかし、20世紀後半になると、さまざまな社会状況の変化を反映して「家庭物語」も大きく様変わりします。女性の就労が当たり前のものとなり、離婚率の上昇に伴って一人親家庭や再婚家庭が増え、少子化が進んで一家族の成員数が急速に減少していく現実を前に、物語の世界もテーマの見直しを余儀なくされたのです。
したがって、現代の児童文学界に『若草物語』と似た作品を探すのは容易ではありませんが、ここでは同じく4人姉妹を主人公にした「ヒルクレストの娘たち」シリーズ(1986-94年)*4をあげておきましょう。両親を亡くした姉妹たちが、後見人の家族に見守られながら成長していく物語です。そして、この物語から逆に『若草物語』をふり返れば、マーチ家が一時的に母子家庭であったことや、隣のローレンス家との間に血縁を超えた信頼関係のあったことが再確認されます。そうして見れば、再婚家庭を描いた『のっぽのサラ』(1985年)*5などにも、『若草物語』との共通点があることに気づかされます。
*注1.1868年に第1部が、1869年に第2部が出版された。 *注2.L・M・モンゴメリ作、翻訳は松本侑子訳、掛川恭子訳など多数。 *注3.ローラ・インガルス・ワイルダー作、恩地三保子訳、福音館書店、1972 *注4.R・E・ハリス作、脇明子訳、岩波書店、1990~1995 *注5.パトリシア・マクラクラン作、金原端人訳、徳間書店、2003
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