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箱庭療法学モノグラフ 第11巻
発達障害児のプレイセラピー
未分化な体験世界への共感からはじまるセラピー
藤巻 るり 著
内容紹介
自閉症児のこころにおける「二」の成立
本書は、こころにおける「二」の構造の成立という視点から、自閉症児とのプレイセラピーにおいて治療者自身も自閉症児と同じように未分化な意識状態に入り込むことがあることを述べる。筆者はそれを「地べた意識」と呼び、積極的な意義を認める。そして治療者が未分化な世界に共に入っていき、そこで感じることの意味をつかむことが、発達障害児が生きている未分化な体験世界を社会的文脈につなげる作業であることを明らかにする。もっと見る
目次
はじめに
第1部 「二」の成立過程をともに生きるプレイセラピー
第1章 こころの発達における「二」の成立
第1節 ワロンの心理学
(1)ピアジェ―ワロン論争
(2)ワロンにおける主体の成立過程
(3)ワロンにおける表象(心的なもの)の発生
第2節 「二」の成立を扱う心理学
(1)自己感の発達論
(2)間主観性の発達論
(3)主体の成立の段階論
(4)移行対象と移行現象
第2章 「二」が成立していない世界――自閉症の体験世界
第1節 原初的な自己感
(1)中核自己感が成立していない世界
(2)無様式知覚、生気情動の世界
(3)自閉症者と言葉
第2節 原初的な「社会性」の障害
(1)原初的な間主観性の障害、もしくは姿勢・情動機能の障害
(2)カナー再考――姿勢・情動機能の障害という視点から
(3)「社会性」概念をめぐるずれ
(4)人を介して発達する脳
第3節 世界との分離の障害
(1)主体(subject)の未成立
(2)対象(object)の未成立
第3章 「二」の成立に関わる心理療法
第1節 自閉症への臨床的アプローチ
(1)間主観性・関係性をキーワードとする自閉症への取り組み
(2)発達論的療育論に基づく自閉症への取り組み
(3)一般的な心理療法による発達障害への取り組み
(4)心理療法と療育が依拠する発達観の違い
第2節 「地べた意識」のプレイセラピー――治療者の退行した意識状態による心理療法
(1)「地べた意識」
(2)治療者が退行することの意義
第4章 事例
第1節 事例1:自閉傾向のある3歳男児A君とのプレイセラピー――原初の「二」の発生と「二」の変容過程
(1)事例の概要 A君(3歳3ヵ月 男児)
(2)面接経過
(3)事例A君のまとめ
第2節 事例2:言葉と排泄自立の遅れを主訴に来談した3歳女児Bちゃんとのプレイセラピー――統合失調症的な自他癒合性との近さと差異
(1)事例の概要 Bちゃん(3歳5ヵ月 女児)
(2)面接経過
(3)事例Bちゃんのまとめ
第3節 事例3:自閉症スペクトラム障害C君との児童期から思春期にかけてのプレイセラピー――「一なる世界」の成立とその否定
(1)事例の概要 C君(小学3年生 男児)
(2)面接の経過
(3)事例C君のまとめ
第5章 「地べた意識」のプレイセラピーによる「二」の発生とその質的な変容過程
第1節 同じ地平に立つこと――「人」以前の世界への遡行
第2節 原初の「二」の発生――視線触発
第3節 「響き合う一なる世界」の生成――土台と地続きの主体
(1)響き合い・リズム
(2)区別・差異化
(3)自他の局在化
第4節 響き合えない「一なる世界」――統合失調症的世界との同一性と差異
(1)病理との出会い――響き合うリズムのない世界
(2)生きた隙間=リズムの源泉
(3)「おうち」(内)の成立
第5節 「一なる世界」の否定――主体と土台の成立
(1)「一なる世界」の成立――未構造の世界
(2)思春期の予感――「剥き出し」になること
(3)殺害――「一なる世界」を切り開く原初の行為
(4)原初の行為の儀式化(風化)と他者の「物」化――ナマを越える作業
(5)主体と場の成立
第2部 「地べた意識」のプレイセラピーの治療的仕掛け
第6章 「地べた意識」と場
第1節 表現の枠組みがない世界、もしくは枠組みの内側の世界
第2節 身体性を帯びた世界
(1)体性感覚を伴うイメージ
(2)述語論理的な世界
第3節 空間的テキスト・移行空間
(1)プラレール
(2)小空間
第7章 「二」以前の世界の力動
第1節 中動態――「一」と「二」の矛盾に満ちた力動
第2節 未構造の世界への参入
(1)織物(texture)と練り物(material)
(2)未構造の世界の内側から見えるもの――言語表現の例から
第3節 未構造の世界の治療関係――転移は起きないのか、全てが転移なのか
(1)自閉症の心理療法と転移
(2)ユングの転移
(3)「地べた意識」と転移
第8章 「地べた意識」の意識化
第1節 意識化の役割
(1)意識化と現実化
(2)治療構造への影響
第2節 形を成す以前の世界
(1)夢見手が語る前の夢
(2)記述にまつわる困難さ
第3節 ミメーシス――世界の象徴化
(1)ミメーシスの三つの形式
(2)ミメーシス論からみた「地べた意識」――テキスト以前
第4節 感じる世界から言葉へ
(1)未構成の経験 unformulated experience
(2)感じられた意味 felt sence と体験過程 experiencing
第5節 「不徹底な現象学」の意義
おわりに 始まっていない世界と世界構成的な意識の誕生
註
引用文献
索引
初出一覧
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著者紹介
※著者紹介は書籍刊行時のものです。[著]藤巻 るり(フジマキ ルリ)
藤巻るり(ふじまき るり)
1972年生まれ。上智大学大学院文学研究科心理学専攻博士前期課程修了。埼玉工業大学人間社会学部心理学科准教授。博士(教育学)。臨床心理士・公認心理師。専攻は臨床心理学。
著書に『ユング派心理療法』ミネルヴァ書房(2013年,共著)、『発達の非定型化と心理療法』創元社(2016年,共著)。論文に「幼児のプレイセラピーにおける原初的な自他癒合性への参入―― 地べた(基盤)であり意識(主体)であるという動的な在り方を通して」(箱庭療法学研究, vol.22(2),3-18,2009年)、「自閉症スペクトラム障害児とのプレイセラピー――『地べた意識』による原初的な間主観的プロセスへの参入」(箱庭療法学研究, vol.29(1),43-54,2016年)、「『地べた意識』による主体と場の生成――イメージ以前の世界に“練り込まれる”治療者の意識過程」(箱庭療法学研究, vol.29(3),3-13,2017年)など。もっと見る
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