河合隼雄のカウンセリング講話

四天王寺カウンセリング講座での記録のほかに、一般向け講演会での記録を加えて一冊にまとめたもの。《河合隼雄の～》シリーズ最後の一冊。「女性」や「芸術」「禅仏教」「日本中世の物語」「病」など、およそ関連のないテーマを別々に取りあげながら、常に一貫しているのは、そこに「一人の人間」が「一人の人間」に全力をあげて会うというカウンセリングの本質が語られるとともに、「生きる」ということそのものを深く考えさせる点である。

刊行にあたって　　河合俊雄　
1
第１章 カウンセリングと女性　
15

男女差ということ　17
「母の時代」　18
男性中心へ　19
可能性に男女差はない　20
女性からの新たな動き　22
揺るがぬ母のイメージ　24
本来の自分のあり方を求めて　26
近代学問の発展と人間　27
関係をもつことの大切さ　28
心を考える「新しい学問」　31
安心を与える母性的イメージ　32
抱きながら分離を促す　34
忘れてはいけない厳しさ　35
母性と父性　36
自分の姿勢を貫く　38
医学においても見直される人間関係　39
知識や仕組みの体系化　41
忘れられる「一人の人間」　42
人間対人間として出会う　44
男の仕事、女の仕事　47
自分の人生の意味を問うとき　49
「中年の危機」　52
女性的なものの果たす役割　54

第２章　カウンセリングと芸術　55

心理療法はマニュアルどおりにはいかない　57
氾濫するマニュアル　59
個性のあらわれが芸術　61
個性を生かすカウンセリング　62
ルールや技術も大切　64
ルールと気持ちの両立　65
スーパーバイザーの存在　66
私のスーパーバイザー　68
思いはたくさん、口は一つ　70
心に響く言葉　71
外国生まれの心理療法を日本人に行う　73
世界に通用する芸術家の出現　74
外の世界との接近のかたち　76 「Ｘ」としか言いようのないもの　79
芸術は心の中に住む　80
演劇にあらわれる「Ｘ」のすごさ　81
わけもない行動の深層を見る　83
演劇と事例研究　85
心理療法と演劇の相似　86
治療者は舞台　87
治療者が演技者になるとき　89
「Ｘ」の噴出の場　91
芸術の中に生きている祭り　93
映画を通しての交流　95
表現療法　96

第３章 禅仏教とカウンセリング　99

カウセリングと言葉　101
禅問答とカウンセリング　103
根源の言葉　105
「おお！」としか言えないもの　107
私は何者か　108
言葉から出て、言葉に出る　111
日常の世界で生きる　113
日常から外へ出る　115
言葉のない体験　116
私のカウンセリング体験　117
純粋な矛盾　119
言葉にとらわれすぎない　120
自分の言葉でものを言う　122
言葉を鵜呑みにしない　123
「あれれ」と思いながら話を聴く　125
「それで？」が自分に突きつけるもの　128
言葉にならない言葉がやって来る　130
一度つぶれて次に展開する　132
沈黙がもたらすもの　133
気づきの場を提供する　135
行動の中に言葉がある　137
禅問答に学ぶ　138
私と、私の知らない私との対話　141

第４章 日本中世の物語の世界　145

こぶとりじいさん　147
昔話がいまの話になるとき　148
人の心の中に住む鬼　150
思いきりが試されるとき　151
「目の上のたんこぶ」のイメージ　153
心の中と外との関係　155
互いの関係の中で生きる　156
人間同士の関係の度合い　157
夢にかける　158
人間は自分をどれほど知っているか　160
見方を変えて自分を見直す　162
違う見方を示すものとしての「夢」　163
普通に生きているということ　165
可能性のプラスとマイナス　167
人生の夢　169
夢を解釈する話　170
大事なことは秘めておく　172
死後の世界　174
臨死体験の研究　176
物語に多い地獄体験　178
この世とあの世とのつながり　179
わらしべ長者の物語　181
満願の日の夢　182
「たった一人」という経験　184
偶然こそが大切　186
「何もしない」という頑張り　187
奇跡の起こるとき　190
お任せの心境から転回へ　191
心を豊かにするために　193

第５章 病をいかに受けとめるか　197
病気と悩み　200
「クリエイティブ･イルネス（創造の病）」　201
中年期の病気　203
天才岡潔は「嗜眠性脳炎」　205
一人だけ学校に行かない　206
あらわれる真相　207
家庭内に起こる衝突　208
浮かび上がる親の問題　210
重荷を家族全体で背負う　213
自分の人生を創造する　214
キャリアのある女性の結婚　217
結婚の現実　219
人生における影の部分　221
八方ふさがり状態　223
存在をかけた勝負　224
もつれた糸をほどく　227
一つのクリエイション　228
それぞれの対決のかたち　229
小説『道草』が描くもの　230
人間みな同じ　232
「日本人」という病　235

初出一覧　237

［著］河合 隼雄（カワイ ハヤオ）
一九二八年、兵庫県生まれ。
京都大学教育学博士。京都大学名誉教授。元・文化庁長官。
一九五二年に京都大学理学部卒業後、高校の数学教諭、天理大学講師をへて、一九五九年にアメリカへ留学。一九六二年にスイスのユング研究所に留学し、日本人として初めてユング派分析家の資格を取得。一九六五年に帰国後、京都大学教育学部で臨床心理学を教えるかたわら、ユングの分析心理学を日本に紹介し、その発展に寄与。一九九二年、京都大学を退官。一九九五年、国際日本文化研究センター所長、二〇〇二年、第一六代文化庁長官に就任。
著書に『ユング心理学入門』『昔話と日本人の心』『明恵 夢を生きる』『河合隼雄著作集（全一四巻）』ほか多数がある。
二〇〇七年七月一九日、逝去。