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フィールド言語学者、巣ごもる。
吉岡 乾 著
内容紹介
日常だって現場(フィールド)なのだ。
話題書『現地嫌いなフィールド言語学者、かく語りき。』
著者による、待望の新刊!
フィールドへ出られなくなったフィールド言語学者が語る、
最高におもしろい言語学のはなし。
*
著者は、大阪の国立民族学博物館に勤務するフィールド言語学者。パキスタンとインドの山奥で話者人口の少ない言語を調査しているが、2020年は世界規模の新型コロナウイルス感染症蔓延でフィールドへ出られなくなり、長らく「巣ごもり」をすることとなった。本書は、著者がそのような生活の中で、日常に溢れる様々な現象を言語学者目線で眺めて考えたことを綴った言語学エッセイ。世界の多種多様な言語の例を用いながら、言語学の諸分野の知識が親切かつユーモアたっぷりに語られる、最高の知的エンターテイメント。イラスト:朝野ペコ
*
●「はじめに」より一部抄録
日常には言語が溢れている。言語が溢れていないところは、人間の居ないところだけだ。
言語学者は言語を食い物にしている。言葉を選ばなければ。だが、その事実を改めて大っぴらにしてしまうと、「危機言語が消滅したら、言語多様性が失われたら、マズいよね!」などと言語学者が幾ら声高に、意識高そうに訴えたところで、「我々の餌がなくなりそうだから、皆も気を付けて!」に聞こえてしまって白々しく響きそうだから、言葉遣いには気を配らなければならない。開けっ広げにそんな言いかたをするのは止そう。ちなみにここでの「我々」は聞き手(あなた)を包括していない。聞き手(あなた)を除外した集合である。
もとい、言語学者は言葉に意識を向けがちである。憖(なまじ)っか言語について考える思考基盤の知識を身に纏ってしまっているため、意図的にその意欲を封じ込めない限り、不図した瞬間、耳目に触れた言葉を、言語学的に矯(た)めつ眇(すが)めつ愛で始めてしまったりするのが、言語学者の多数派である。僕はそう信じている。怠惰な生活態度に定評のありそうな僕ですらそうなんだもの、他の研究者たちはもっと熱心に物思いに耽っているに違いあるまい。
言語学メガネを着用すると、日常の暮らしの中に、隠された一面が伏流のように存在しているのが、さもAR(拡張現実)かの如くに見えてくるのだ。
本書は、フィールド言語学者である僕が、高尚さのかけらもなしに、そんなふうに言語学目線で漫ろに思った日々のアレコレを詰め込んだ一冊となっている。フィールド研究者を謳っていながら、世界規模の新型コロナウイルス感染症蔓延でフィールドに出られなくなり、テレワークも推奨されて、二〇二〇年の春以降は長らく「巣ごもり」をすることとなった。そしてそんな妙な事態になったものだから、時間の余裕ができるかもなどと勘違いして、筆のまにまに書き出したのである。……(以下略)もっと見る
目次
まえがき
ざっくり言語学マップ
Ⅰ.
言語学が何をして何をしないか|言語学とは何か
文法のない野蛮な言語を求めて|言語は何か
語学挫折法|語学
喋る猫のファンタジー|音声学・生物学
差別用語と言葉狩り|差別語・罵倒語・卑語・誹謗・中傷
僕は言葉|社会言語学・隠語・アイデンティティ
Ⅱ
日常をフィールド言語学する|フィールド言語学・個人語
【緊急】リモート調査チャレンジ|文字・フィールド調査
翻訳できないことば|意味論・翻訳・文化的背景
言語が単一起源ではない理由|歴史言語学・文字・生物学
淘汰されたプロの喩え話|成句・比喩・諺
無文字言語の表記法を編み出すには|文字・音韻論・文化的背景
例のあのお方|敬語・借用語・音韻論
Ⅲ
どうして文法を嫌うのか|言語と文法
軽率に主語を言えとか言う人へ|主語と主題と主格
意味と空気|意味論・語用論
語とは何か|音韻論・形態論・統語論・意味論
ことばの考古学|比較言語学
日本語はこんなにも特殊だった|類型論
なくなりそうな日本のことば|方言と言語・危機言語
あとがき
言語解説/参考文献もっと見る
著者紹介
※著者紹介は書籍刊行時のものです。[著]吉岡 乾(ヨシオカ ノボル)
吉岡乾(よしおか・のぼる)
国立民族学博物館准教授。専門は記述言語学。博士(学術)。1979年12月、千葉県船橋市生まれ。2012年5月、東京外国語大学大学院博士課程単位取得退学。同9月に博士号取得。博士論文の題は「A Reference Grammar of Eastern Burushaski」。2014年より、現職。
大学院へ進学した2003年よりブルシャスキー語の研究を開始し、その後、パキスタン北西部からインド北西部に亙る地域で、合わせて7つほどの言語を、記述的に調査・研究している。著書に『なくなりそうな世界のことば』『現地嫌いなフィールド言語学者、かく語りき。』(ともに創元社)。もっと見る
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