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44.鴨居羊子の絵とエッセイに魅せられて ─ 画家、鴨居玲とともに |
話は前後するが、私は今年になって心斎橋の旧いおしゃれなビルの中にある古本屋、「ベルリン・ブックス」を初めてのぞいた折、『型録 ミス・ペテン ─ 鴨居羊子の世界』(2004年、恵文社)という横長の小冊子を見つけた。 |
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「下着ぶんか論」表紙 |
そんなわけで、ようやく九月に入って天六まで足を伸ばし、「ワイルドパンチ」で気になっていた『下着ぶんか論』(昭33、凡凡社)をやっと手に入れることができた。 |
ただ、下着店の店頭をチラッと横眼で見つつ通り過ぎるだけでも、多種多様な見せる(魅せる)下着が氾濫している現在から見れば、それらの写真もいささか旧さを感じさせる。しかし、当時の読者はこの程度でもドキドキしたことだろう。 |
さて、私は吉行氏が「すばらしい出来栄え」と評している『のら犬のボケ』(1958年、東京創元社)もぜひとも読みたく、あちこちの古本屋で集中的に探したが、全く見つからない。そこで、例によって最後の頼みの綱、津田京一郎氏にインターネットでの探索をお願いした。しばらく御返事がなかったので、あきらめかけていた矢先、ある日届けて下さったのが、元本ではないが、新潮文庫に入った『のら犬のボケ・シッポのはえた天使たち』(1980年)であった。小躍りしたのは言うまでもない。すでにこの原稿を書きかけていた時であった。すぐに大車輪で読み始め、「のら犬のボケ」の方は三日程で読了してしまった。 |
「のら犬のボケ・シッポのはえた天使たち」カバー (新潮文庫) |
「のら犬のボケ」は、彼女が記者時代の後期、取材などで歩き回った街の途上で出会った野良犬たち、ボケを始め、ジャン、クロ、メリー、三太など13匹の愛すべき犬たちと彼らにかかわった庶民たちのエピソードが、達意の、ユーモアと愛情あふれる文章でスケッチされている。個性的な犬たちの表情や性格が巧みに描かれ、各々の犬との出会いと別れが一篇ごとに短篇小説のように仕上っている。とくに彼らの死による別れの描写は哀切きわまりない。時にナイーブな少女の心がふるえている。彼女は犬と出会うと「プレポリョウ」と言ったり、「シュニマシェール・リィ」といった不思議な挨拶のことばを交し、それで犬と通じ合うらしい。これは私に草野心平の蛙ことばを連想させる。さらにバスの切符売りのおばさんやラムネ、カキ餅、犬捕りも出てきて、戦後まもない頃の懐かしい風俗の証言にもなっている。登場する庶民たちの会話がみな、大阪弁まるだしなのも生彩があって愉快だ。これは、まぎれもなく、鴨居羊子の最高傑作だと思う。本文中に多数挿入された彼女の犬のカットがまた、すばらしい。鉛筆(?)で細かく描き込まれていて、ラフな油絵より私は好ましい位だ。併録の「シッポの・・・」も彼女が飼った鼻吉(一、二代)や猫たちとの生活を綴った楽しい物語だ。この文庫は本当にお勧めである。 |
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