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43.PR誌の黄金時代を振り返る ─ 『嗜好』『真珠』から『放送朝日』『エナジー』まで |
七月中旬に、神戸元町、海文堂書店で、林哲夫氏の新刊『文字力』の刊行を記念して、「神戸の古本力」というテーマで、私も話し手の一人に招かれ、若手の北村和之氏と三人でトークショーを行なった。60人程の熱心な古本ファンの方々が聴きにきて下さったが、林氏がそのうんちくを熱弁されたので、私は下手な話でお茶を濁すことができた。神戸の最近の古本事情を、ということだったので、律儀な(?)私は直前の二週間前になって二度、久しぶりで神戸の古本屋をわずかながらめぐって、頼りない準備をした。その折、最近はめったに行ったことがなかった元町の「つのぶえ」を久しぶりにのぞいてみた。ここはキリスト教関係本が専門だが、他の分野で時々面白い本を手に入れた記憶がある。今回も、木々高太郎『折蘆』(河出、市民文庫、昭26)を棚で見つけ、そろそろ店を出ようとした時、ふと本の山の上に立て掛けられた、見慣れない小雑誌12冊一括が目に止った。一番上の表紙には『嗜好』とあり、どうやら食品会社のPR雑誌らしい。新書判に近い判型で、装幀もなかなか面白い。しかし、セロファン紙に包まれているので中身は分らない。私は一寸ためらったが、レジの若い人に、中を見せてくれませんか、と頼み、少しだけのぞかせてもらった。面白そうだ、と直感し、値段も一括で千円だったので買うことにした。トークショーでも、最近の神戸での収穫を実物提示することになっていたので、これは使えそうである。 |
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「嗜好」表紙 |
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帰宅して、中身をいろいろ点検すると、予想以上に奥の深いPR雑誌であることが分ってきた。これは有名な食品販売会社、キリンビールなどの販売元、明治屋が出している季刊PR雑誌で、私の手に入れたのは406号(昭34、12月号)から422号(昭38年、12月号)のうちの12冊。そこに別冊「明治100年」号も含まれている。この号には川上澄生の「南蛮文化と文明開化」という随筆とともに、情趣ある澄生の版画作品がカラー図版で八頁にわたり載っている。 |
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「嗜好」目次頁 |
表紙は毎号、季節に応じた違ったデザインで、この頃は岡井睦明氏が担当、目次頁も別のデザイナーによる二つ折りの、工夫を凝らした三色刷りの意匠だ。本文90頁で、中央部の八頁に、美しいカラー図版が入っている、というのが毎号決まったパターンのようだ。文字組みは私の入手した407号まではタテ、二段組みだが、410号からはヨコ組みに変っている。(ヨコ組みを雑誌に採用した割に早い試みではなかろうか。) |
さて、内容はと見ると、メインに山田憲太郎氏(香料史)や浜田義一郎氏(風俗史?)による食物文化誌の連載があり、随筆執筆者には団伊玖磨(エスカルゴものがたり)、渡辺紳一郎、きだみのる、飯沢匡といった人たちの名が見える。大阪発行の『あまカラ』は小島政二郎の連載「食ひしん坊」を始め、著名文化人の短い、柔らかい随筆が満載されていたが、こちらはもう少し学術的な、文化史の資料としても残るような記事が多い。 |
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