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詩人たちのロールシャッハ
創造的言葉が生まれてくるところ
馬場 禮子 編著 / 大岡 信 著 / 吉本 隆明 著 / 澁澤 龍彦 著 / 吉行 淳之介 著 / 野坂 昭如 著 / 谷川 俊太郎 著
内容紹介
イメージから言葉が生み出されるまで
本書は、ロールシャッハ法研究の第一人者である馬場禮子が、大岡信、吉本隆明、澁澤龍彦、吉行淳之介、金子光晴、野坂昭如、谷川俊太郎といった、当代の日本を代表する詩人・作家たち7名に対しておこなったロールシャッハ・テストの結果と解釈、さらにはその後の対話の全記録をまとめたものである。
1979年に『心の断面図』として刊行された内容に、新たに金子光晴、野坂昭如両氏の検査結果と解釈を追加し、さらには全被検者の詳細な検査の数値表と、馬場による継起分析も追加して、より専門性と資料的価値の高い貴重な内容になっている。
曖昧なイメージをどう捉えて、どのような言葉で表現してゆくかは百人百様である。本書を読めばすぐにお分かりになるだろうが、テスト図版を前にした詩人・作家たちの態度や反応の処理の仕方はじつにユニークで、その豊かで独創性に富んだ反応内容には驚かされることだろう。自分の感じたことや、内的に触発されたものを的確に言葉で表現するのはそれほど簡単なことではない。こうした創作者の反応は、患者さんや「正常者」と言われる普通の人たちとは、やはり大きくかけ離れていると言える。では、どこがどう違うのだろうか。
「被検者に詩人を選んだのは、短い言葉で表現するという表現形式が、ロールシャッハ法と共通すると考えたからだ」と馬場は述べている。ロールシャッハ・テストは、詩人たちが表現の衝動を覚えて言葉を紡ぎだし詩の形にしていく過程と本質的によく似たところがある。それゆえ、馬場が本書で示している解釈は、単なるパーソナリティの診断というだけでなく、詩人・作家たちの創造過程にまで深く踏み込んだものになっている。
検査後の対話は検査結果を補う目的でおこなわれたものだが、馬場と創作者たちのやり取りがじつに生き生きとしており、それぞれの人となりが見事なまでに表れていて、専門家のみならず一般の文学愛好者にも十分楽しんでもらえることだろう。もっと見る
目次
はじめに――改訂にあたって
凡例
◆大岡 信
プロフィール
1 ロールシャッハ法…………………………………………………馬場禮子
2 対話:紳士の皮を着た野獣 ……………………… 大岡 信×馬場禮子
対話を終えて………………………………………………………馬場禮子
ロールシャハ・テスト被検者として……………………………大岡 信
大岡 信氏のロールシャッハ法解釈――継起分析………………馬場禮子
◆吉本隆明
プロフィール
1 ロールシャッハ法 馬場禮子
2 対話〈1〉:たれにも ふれえない なにか…………吉本隆明×馬場禮子
対話〈2〉:ぼくが真実を口にすると………………吉本隆明×馬場禮子
対話を終えて……………………………………………………… 馬場禮子
起伏………………………………………………………………… 吉本隆明
吉本隆明氏の反応語へのコメント……………………………… 馬場禮子
◆澁澤龍彦
プロフィール
1 ロールシャッハ法…………………………………………………馬場禮子
2 対話:明晰を意志する精神…………………………澁澤龍彦×馬場禮子
観念的エロスの夢…………………………………………………馬場禮子
テストのあとで……………………………………………………澁澤龍彦
澁澤龍彦氏のロールシャッハ法解釈……………………………馬場禮子
◆吉行淳之介
プロフィール
1 ロールシャッハ法…………………………………………………馬場禮子
2 対話:知的バイセクシュアルのすすめ…………吉行淳之介×馬場禮子
陥し穴の逆説………………………………………………………馬場禮子
被検者の感想………………………………………………………吉行淳之介
防壁の背後にあるもの――吉行淳之介の心理分析……………馬場禮子
◆金子光晴
プロフィール
1 ロールシャッハ法…………………………………………………馬場禮子
金子光晴氏のロールシャッハ法解釈――量的分析・継起分析…馬場禮子
◆野坂昭如
プロフィール
1 ロールシャッハ法………………………………………………… 馬場禮子
2 対話:繊細で内向的な内面と行動の乖離………… 野坂昭如×馬場禮子
恐怖の楽天人間の構造………………………………………………馬場禮子
試された妄想…………………………………………………………野坂昭如
野坂昭如氏のロールシャッハ法解釈―量的分析・継起分析……馬場禮子
◆谷川俊太郎
プロフィール
1 ロールシャッハ法 (1回目)……………………………………馬場禮子
ロールシャッハ法 (2回目)…………………………………… 馬場禮子
2 対話〈1〉:本当の事を云おうか……………………谷川俊太郎×馬場禮子
対話〈2〉:詩人のInside……………………………谷川俊太郎×馬場禮子
対話を終えて…………………………………………………………馬場禮子
感想…………………………………………………………………谷川俊太郎
資料
文学的創作の精神分析的研究………………………………………馬場禮子
初出一覧
『心の断面図』あとがき………………………………………………馬場禮子
本書のあとがきに代えて――全体のまとめ…………………………馬場禮子もっと見る
著者紹介
※著者紹介は書籍刊行時のものです。[編著]馬場 禮子(ババ レイコ)
1934年東京生まれ。医学博士。臨床心理士。1958年慶應義塾大学社会学研究科心理学専攻・修士課程修了。1981年 中野臨床心理研究室を開設。常磐大学人間科学部教授、東京都立大学人文学部教授、放送大学教育学部教授、東亜大学大学院教授、山梨英和大学大学院教授などを歴任。主な著書に、『精神力動論』『心の断面図』『境界例』『ロールシャッハ法と精神分析』『心理療法と心理検査』『精神分析的心理療法の実践』『心理査定実践ハンドブック』(共編)『精神分析的人格理論の基礎』『力動的心理査定』など。主な訳書に、E・クリス『芸術の精神分析的研究』、B・ランディス『自我境界』(共訳)、D・N・スターン『親-乳幼児心理療法』(共訳)、J・H・クレーガー『思考活動の障害とロールシャッハ法』『ロールシャッハ法による精神病現象の査定』(監訳)などがある。2023年9月、本書の刊行を見ぬまま逝去。[著]大岡 信(オオオカ マコト)
(1931~2017)日本を代表する現代詩人・評論家の1人。静岡県生まれ。東京大学国文科卒。大学卒業後、読売新聞社記者を経て、明治大学教授、東京芸術大学教授を務める。1989~93年、日本ペンクラブ会長。1972年には評論『紀貫之』で読売文学賞を受賞。1979年から朝日新聞に連載を始めた『折々のうた』で菊池寛賞(1980)を受賞するなど、受賞歴多数。主な詩集に『記憶と現在』(1956年処女詩集)、『春 少女に』(1978年無限賞)、『故郷の水へのメッセージ』(1989年現代詩花椿賞)、『地上楽園の午後』(1993年詩歌文学館賞)などがある。評論集には『蕩児の家系』(1969年歴程賞)、『紀貫之』(1971年読売文学賞)、『詩人・菅原道真』(1989年芸術選奨文部大臣賞)など。日本芸術院会員。1994年に芸術院恩賜賞。1997年文化功労者、2003年文化勲章、2004年6月には、フランスのレジオン・ドヌール勲章オフィシエ章を受章。父は歌人の大岡博、長男は芥川賞作家の大岡玲。[著]吉本 隆明(ヨシモト タカアキ)
(1924~2012)「戦後最大の思想家」と評される詩人・評論家。東京生まれ。東京工業大学電気化学科卒。卒業後、東洋インキに勤めるかたわら詩作に没頭し、私家版詩集『固有時との対話』(1952)、『転位のための十篇』(1953;1954年『荒地』詩人賞)を出版し、『荒地詩集』に参加。言語、文学、思想についての新しい理論構築を目指すだけでなく、政治、経済、大衆文化、宗教など、広範な領域で評論・思想活動を行った。『高村光太郎論』(1956)をきっかけに、文学者の戦争責任を追及し、独創的かつ鋭い語りくちの評論家として注目された。安保闘争への参加を経て1961年に同人誌『試行』を創刊。自立した思想の展開と党派性などに挑戦した『模写と鏡』(1964)、独自の言語表現論である『言語にとって美とはなにか』(1965)や、国家の本質は人々の観念の集まりであるとした主著『共同幻想論』(1968)、さらには『最後の親鸞』(1976)や『初期歌謡論』(1977)、『マス・イメージ論』(1984)など、幅広く多様な著書を数多く手がけた。漫画家のハルノ宵子氏は長女、作家のよしもとばなな氏は次女。[著]澁澤 龍彦(シブサワ タツヒコ)
(1928~1987)小説家、評論家、フランス文学者。幻想的な小説やエッセイの書き手として知られる。東京生まれ。東京大学仏文科卒。1954年ジャン・コクトーの『大股びらき』の翻訳や、『マルキ・ド・サド選集』(1956)、『サド復活』(1959)など一連のマルキ・ド・サドの翻訳によって注目をあびる。サドの翻訳『悪徳の栄え』(1959)が猥褻文書とされ、最高裁まで争ったことはよく知られている。その後もさまざまな美術評論や中世の悪魔学についてのエッセイのほかに、異端文学・芸術の研究もし、また自身でも独自の幻想小説を執筆するなど、幅広いジャンルの執筆で活躍。1962年の小説『犬狼都市』『神聖受胎』のほか、『夢の宇宙誌』(1964)、『快楽主義の哲学』(1965)、『エロティシズム』(1967)、『黄金時代』(1971)、『悪魔のいる文学史』(1972)、『胡桃の中の世界』(1974)、『思考の紋章学』(1977)、『唐草物語』(1981年泉鏡花賞)、『マルジナリア』(1983)、『高丘親王航海記』(1987年読売文学賞)など、多彩で旺盛な執筆活動を展開した。[著]吉行 淳之介(ヨシユキ ジュンノスケ)
(1924~1994)小説家、エッセイスト。岡山県生まれ。東京大学英文学科中退。旧制高校時代より文学に関心をもつが、つねに病気がちであった。1945年に東京帝国大学に入学。1947年、新太陽社に入社し、大衆誌『モダン日本』などの雑誌編集に携わりながら自らも執筆を続け、1952年下期から毎回のように芥川賞候補にあがる。『驟雨・その他』で1954年第31回芥川賞を受賞後、本格的な執筆活動に入る。同世代の作家・遠藤周作、安岡章太郎らと共に「第三の新人」と呼ばれ、旺盛な執筆活動で多数の作品を発表。『砂の上の植物群』(1964)、『不意の出来事』(1965年新潮社文学賞)、『暗室』(1970年谷崎潤一郎賞)、『鞄の中身』(1976年読売文学賞)、『夕暮まで』(1978年野間文芸賞)、『人工水晶体』(1986年講談社エッセイ賞)など受賞歴も多く、さまざまな文学賞の選考委員も務めた。1979年には日本藝院賞(1978年度)も受賞している。父は作家の吉行エイスケ、母は美容家・吉行あぐり、詩人・芥川賞作家の吉行理恵と女優の吉行和子は妹。[著]野坂 昭如(ノサカ アキユキ)
(1930~2015)神奈川県生まれ。小説家・作詞家。早稲田大学文学部仏文科中退。生後1年もしないうちに母と死別し、神戸の親戚の養子となる。第2次世界大戦末期、1945年6月の大空襲で養父母を失い、妹とともに戦災孤児となった。疎開先で終戦を迎えるがまもなく妹が栄養失調で衰弱死。このときの悲惨な体験は、のちに『火垂るの墓』(1967)に描かれ直木賞を受賞、アニメ化もされている。戦後は新潟県副知事であった実父に引き取られ、野坂姓に戻る。したたかな生活力とユーモアとともに「焼け跡闇市派」を自称し、既成の良識への反抗を独特な饒舌体で描いて人気作家となった。『エロ事師たち』(1963)で三島由紀夫、吉行淳之介らに絶賛され、『骨餓身峠死人葛(ほねがみとうげほとけかずら)』や『真夜中のマリア』(ともに1969)などの代表作を生んでいった。『同心円』(1997)で吉川英治文学賞を、『文壇』(2002)で泉鏡花文学賞などを受賞。[著]谷川 俊太郎(タニカワ シュンタロウ)
(1931~2024)東京生まれ。詩人。1952年に第一詩集『二十億光年の孤独』を刊行して日本の詩壇にこれまでにない新しい感性の風を吹き込み、息長く現代詩の最前線で活躍したが、2024年11月、本書を手にすることなく逝去。詩集のほかに散文や絵本、童話、翻訳、作詞、写真なども手がける。「マザー・グースのうた」の翻訳や「鉄腕アトム」の主題歌の作詞などは殊によく知られている。詩作品は数千以上に及ぶ。本書でも取り上げる『落首九十九』(1964)、『旅』(1968)、『定義』(1975)のほかに、『コカコーラ・レッスン』(1980)、訳詩集『マザー・グースのうた』(1975、日本翻訳文化賞)、『日々の地図』(1982、第34回読売文学賞)、『よしなしうた』(1985、第3回現代詩花椿賞)、『世間知ラズ』(1993、第1回萩原朔太郎賞)、『トロムソコラージュ』(2009、第1回鮎川信夫賞)、『詩に就いて』(2015、第11回三好達治賞)など多数の受賞歴がある。哲学者谷川徹三氏は父、音楽家谷川賢作氏は息子。もっと見る
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