実は私も、雑種犬、ソニーと15年間、生活を共にし、三年前に亡くなったが、未だに彼と暮らした年月は懐かしく、忘れがたいものがある。以前、『悠』という教育雑誌から依頼され、毎月一冊、お気に入りの新刊書評を連載したことがあるが、そこにベストセラー『盲導犬クイールの一生』をあえて推奨したことがある程の、犬好き人間なのである。(これは映画化、テレビドラマ化の作品も見て、むろん泣きました!)彼女は雑種犬の方が好きだそうで、その点でも同感だ。こうして、大の犬好きという共通項が鴨居羊子への親近感を急に高めさせたきっかけになったことはまちがいない。
その上、図録に載っている「わが家族」という彼女のエッセイを読むと、ユーモラスで笑わせられ、その文章の巧さにも感心させられた。彼女はこんな風に書いている。「いかにも私が動物を愛して、やさしく、優雅に暮しているのだろうと思っている人がいる。どうしたしまして。うちの猫と犬の奴め!」と。そして、ある冬の夜、家でスキヤキを始めたら、犬は早速ソワソワあわてだし、ウーウーとうなり、よだれを流しだした。それで彼女もあわてて、机の下の皿へ出来立ての上肉と野菜を自分のとまちがえて入れてしまい、取りかえようとしたが、もうパクついている。(これは私もよく経験した。)彼女は食卓を囲んでゆっくり語らいながら食べるのが文化というものなのに、これだから犬は非文化的だ、と腹を立てている。さらに五匹の猫にも手こずっているエピソードをあげ、「もうお前達には愛想がつきたワイ。面倒見きれん。バイバーイと、私は仕事場にゆくべく車に乗る。」それに続く最後の締め括りがすばらしい。「しかし、夕暮れともなれば、私の車を待つ猫たちが塀ごしに現われて、犬のように車の横を走り、犬がいま更の如く吠えたて、その足許にチビ猫がついて現われ・・・(中略)・・・いま、また初めて出遭う恋人同士のように新たなやさしい夜が私達をつつむ。」と。
図録の巻頭にある美術評論家、瀬木慎一氏(氏は後述の旺文社文庫の解説も担当)の「画家 鴨居羊子」も洞察力に富んだ読みごたえある文章だ。氏は「彼女のように、動物を人間との関係で深切に描いた画家は絶無」と言い、「人間の内奥を、動物との関係において、このように生々しく描いた先例は全く無い」とまで言い切っている。
さらに「彼女の画像においては、人間の孤独が動物の孤独と並んでいるのであり、そこに、なんとも言えぬ切実な哀愁が漂っています。」とも書いている。そして、それらはまさしく人生のドラマの芸術的昇華に他ならない、と指摘している。私が大いに心動かされた絵が、美術評論家によっても高く評価されているのを読み、うれしくなってしまった。 |