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42.豊田三郎と紀伊国屋出版部 ─ 片山総子(宗瑛)への恋とともに ─ |
今回もマイナーな作家たちに登場願おう。 |
「新しき軌道」函と本体 |
それでひとまず安心したのか、私の悪いクセで積ん読のまま大部床に眠っていたのだが、最近ヒマを見つけ、その一部を読んでみた。これは第一創作集『弔花』(昭10、紀伊国屋出版部)に続く豊田の第二作品集で、中小篇が九篇収録されている。最初の「新しき軌道」が73頁の中篇で、自伝的な作品であり、以下に紹介するようにいろんな意味で読みごたえがあった。この小説と、以前これも目録から手に入れた新宿歴史博物館編の興味深い図録『田辺茂一と新宿文化の担い手たち』(平成7年)にある伝記的事実をも参照しつつ、ごく簡単にあらすじを紹介してゆこう。 |
主人公、鳥羽(豊田と思われる)は静岡高校を出て東大独文科に入学するが、偶然見つけて入居した下宿の娘 ─ 二十歳で、保険会社に勤める ─ 雪江に恋するようになる。鳥羽は中学時代、父を失い、以来、父の縁故で世界的な癌研究者、高柳(仮名?)博士の学資援助を受けていた。雪江と深くつきあったものの、結婚となると踏み切れず、最後は別れようと一ヶ月九州旅行に出かけて帰った翌年秋、雪江が芸者となったのを知る。鳥羽はもう一度、芝の「松の家」にいる雪江に会いに行き、二人共涙して別れの辛さを味わう。 |
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