← トップページへ | ||
← 第51回 | 「古書往来」目次へ | 第53回 → |
52.福田清人の小説・回想記を読む ─ 第一書房時代を中心に ─ |
福田清人というと、私には華やかな存在というより、多少地味ながら、息長く活躍したいぶし銀のような作家であり、多くの業績を遺した近代文学研究者でもある、というイメージを抱く。戦前、戦後しばらくは純文学作家として、その後亡くなるまではむしろ児童文学作家として中心的に活躍した人だが、私は児童文学の方は全く読んでいないので、よく分らない。それでも、文庫になった『若草』や『春の目玉』の評価が高いのは知っているが。今回は幅広い福田氏の作品のごく一側面を紹介するに留まることを予め断わっておこう。(いや、いつの連載でもそうだが。) 私が福田清人の小説に本格的に出会ったのは古本で見つけた『憧憬』(昭17、富士書房)という作品集以来である。この中の中篇「文学仲間」に、昭和11年に自身も青年作家叢書の一冊として出した『脱出』出版をめぐって、その版元である協和書店主も仮称で登場するので、それらを推理して紹介した一文を『古本が古本を呼ぶ』(青弓社)に収録したのだった。 |
|
「福田清人著作集」函と表紙 |
そのうち、『福田清人著作集』全3巻(冬樹社)が出ており、そこに入っているのが分ったが、これも大阪の国際児童文学館にもなく、わずかに福田氏が教えていた大学の図書館ぐらいしか持っていないと伺い、もはや読むのをあきらめかけていた。ところが、二年程前、東京のN書店から届いた目録に、著作集が割りに安く出ているのを見つけ、すぐに注文したのである。とはいえ、私には大金だったので、お願いして分割払いにしてもらった(N書店に感謝!) |
早速、その中篇を読んでみたが ─ 細部はもう覚えていない ─ 内容は前半が著者を思わせる主人公の大学卒業前後の話であり、後半は彼があるインチキ実話読物雑誌を発行する出版社に入り、編集兼ルポの執筆者としていやいやその日勤めをしながら、豊富な男性遍歴をもち、以前は劇団の女優で今は新聞通信社の記者となっているある24歳の女性と交渉をもち、心が不安定なうえ、友人の駆け出しの男優との浮気も発覚し、結局別れてしまうまでを描いたものだった。最後は出版社に辞表を出し、新しい文学生活をめざすところで終っている。だから外面的な枠だけは福田氏のたどった道と似ているものの、殆んどがフィクションで第一書房の内部の様子や仕事の実態が出てくるわけでなく、期待がはずれ、一寸がっかりした。 |
|
次へ >> |
← 第51回 | 「古書往来」目次へ | 第53回 → |
← トップページへ | ↑ ページ上へ |