この本は富士さん(氏と書くとどうもそぐわないので以下このように。)と交流のあった14人の文学者たちを各々追悼した短篇小説、ないしエッセイを収めたもので、標題作は久坂葉子とその母を描いたもの。
一寸脱線するが、私の手に入れた本書には裏広告の次頁と見返しに、富士さんの死亡記事や毎日新聞に載った山田稔氏の追悼エッセイ「生を噛みしがむ」、同、版元の涸沢純平氏によるコラム「軽みの死者」が貼り付けてあった。涸沢氏は、富士さんが、自由に本書を編集させてくれ、「勝手に作りよった」と言って編集者を喜ばせてくれる、ふところの大きな人だった、と著者を偲んでいる。山田氏のは、晩年、富士さんの歯が殆んど抜けても入れ歯にせず、歯ぐきで噛みつづけた姿とその文学への姿勢をだぶらせて綴った味わい深いものだ。死亡記事中の桑原武夫先生の談話には、富士さんが最後の「文人」で、「隠遁」はしていても日本式の「世捨て人」の甘えがなかった、とあり、なるほどなと思う。古本にはこのように時々、旧蔵者がその本の著者の死亡記事などを貼り付けているものが見られるが、美的にはどうも抵抗があってそこまでしなくてもなあ、という感を抱かせることが多い。けれども、この本の場合はそんな付録付きも有難く、得した気分になった。 |