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古書往来
46.澁川驍展の図録と文明社の本と

前回の連載の校正が終わった翌日だったか、私は橋爪節也先生と進めている『大大阪イメージ』の企画の打合せで先生と淀屋橋でお会いした際、11月24〜26日に芦屋市立美術博物館で初めて行われる古書展の目録『モダニズム周辺』の出来たてを見せられ、これは私も早く手に入れねば、とその足で早速、天神橋筋まで足を伸ばし、出品店の一軒、「書苑よしむら」に立ち寄った(同ビルの「厚生書店」はあいにく休店)(我ながら、珍しく素早い行動です!)。
実はこの店は初めて中をのぞいたのである。やはり人気の目録なのか、レジの横に一冊しかもう残っていなかったが、店主からそれを気安くゆずっていただいた。

「モダニズム周辺」表紙
「モダニズム周辺」表紙

「街の草」さんや「ロードス書房」さんらが知恵を絞って表紙デザインの材料を選んだだけに(実は私は偶然、夏に三宮の「ロードス書房」をのぞいた折、お二人で相談中の現場を目撃している)、斬新な、いかにもタイトルにふさわしい、強烈な色彩のモダン女性をあしらったデザインである(画家名は不詳の由)。中身も、巻頭に芦屋市立美術博物館の明尾圭造氏や街の草店主、加納成治氏、ロードス書房主、大安榮晃氏が、各々にとってのモダニズムの意味や体験をエッセイに書いていて面白い。

とくに加納氏は私も本で紹介した神戸の庶民派詩人、林喜芳の『神戸文芸雑兵物語』を読み、独自の感想を寄せている。目録自体も大へん充実していて、神戸の「古本力」を総結集したようなラインナップで、いい本が沢山載っている。

(ついでに、ここでちゃっかり宣伝を。7月に神戸元町の海文堂書店で開催された林哲夫、高橋、北村和之による『神戸の古本力』トークショーの内容に大幅加筆し、神戸の戦前の古本屋資料、地図なども付けた同名の本が11月末神戸のみずのわ出版から刊行されました。)

グラビア頁で私があっと驚いたのは、これも私が連載で一寸取り上げた大阪の無名の詩人、大西鵜之介の珍しい詩集『刺繍のある黒檀』(大正15)と『亜鉛風景』(昭2)の書影がセットで出ていたり、その後の連載でふれた吉原治良の貴重な『絵本スイゾクカン』(昭7、発売・創元社、大坂・四美術社)も出ていたことだ。

「刺繍のある黒檀」と「亜鉛風景」表紙「絵本スイゾクカン」表紙

これらは喉から手が出る程ほしい本だが、残念ながらいずれも高価で手が出ない。後者は朝日新聞(11/26)の記事によると、20人以上の注文が入ったという。さもありなん、と思う。これだと抽選で当りっこないので、いっそあきらめもつくというものだ。

さて、私は「書苑よしむら」は初めてなので、一通り棚を見て回った。美術書だけではないのが有難い。入口のコーナーには、最近まとまって入ったという寿岳文章の著作がいろいろ展示されており、ぐろりあ・そさえて刊の『書誌学とは何か』(昭5)などは初めて見た。「ぐろりあ・そさえて」らしい重厚な造本である。

結局、安いものを二冊買い求めたのだが ─ それについては後述 ─ 元、リーチさんにいて独立した若い店主の方が、棚にあった『上林暁研究』(園田学園女子大学、吉村稠研究室刊)の数冊をさし出し、この中でお好きな号をサービスでさしあげます、と言われる。この方は以前から私を見かけると、よく声をかけて下さる人だ。なんと店主の方はこの雑誌の編集、発行者、吉村稠氏の息子さんなのだと言う。父君の仕事のPRも兼ねてのことらしい。

「上林暁研究」表紙
「上林暁研究」表紙

実は吉村先生とは一寸した縁があって、以前私が出した『著者と編集者の間』に少し書いた、編集者としての上林暁についての文章を目に止めていただき、この雑誌に連載の「上林暁関係書目」の一冊に加えていただいたことがあったのだ! 全く、縁は異なものである。私は、徳廣睦子さんの連載「天沼の家」や橋本靖雄氏の「若き日の上林さん ─ 『改造』記者徳広巌城氏 ─」などが載っている第八号を選んで、有難く頂だいした。それとともに、若い店主君への見方もより親近感がもてるものに変った(相手をよく知るということは大切だなあ……)

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