古本展で本を漁っていると、大部分は市販された本だが、中に私家版の本も混ざっており、その中で時たま、キラリと光る、地味だが味わい深い冊子に出会うことがある。これも古本漁りの醍醐味の一つであろう。考えてみると、私家版は古本屋でしか殆んど手に入らないのだから、貴重である。
今回はそんな本たちの中で、国文学者が書いたものばかり、紹介してみよう。しかも共通するのは皆、古本漁りの好きな著者であることだ。私はこの分野に暗くて詳しいことは分らないが、専門の業績は充分あり、専門書は出していても、一般向けの著作はごく少なく、全国的にはあまり知られていない方たちだろう。国文学者だけあって、タイトルも各々なかなか含蓄のあるものだ。
まず、今年初春の京橋ツイン21ビルの古本展でタイトルに引かれて手に取ったのが、110頁の薄い本、三沢諄治郎『学問の入口 ─ 創作とエッセイ』(昭53)である。著者は未知の人だが、創作も含まれているようだし、値段も500円なので、喜んでレジに持参した。実は、私は以前出した本に「国文学者が書いた小説」なる一文を載せており、坂本浩氏が若い頃出した珍しい小説『時ぞ待たるる』などを紹介しているのだ。本書の「あとがき」を見ると、子息の方が書いており、遺稿集だと分る。父が戦後書きのこした未発表の文章で比較的愛着をもっていたもの三篇を収めてあり、「父は学者であるまえに、多情多感な文学的求道者だったのである」とも述べている。奥付の詳しい略歴(これは読者に親切だ)を読んでゆくうち、私はアッと驚く箇所に出会った。というのは、三沢氏が大学教授になる直前に、六甲高等学校教諭、とあったからだ。私が通っていた母校である!しかし、御名前はまったく記憶にないので、私が入学する前におられた先生であろう。(いや、国語教師も何人かおられたから、教えてもらわなかっただけかもしれない。)この本との縁をますます感じる。(※1) |