『近代日本メディア議員列伝』
刊行にあたって
佐藤卓己
メディア議員とは「メディア経験をもつ代議士」あるいは「議席をもったジャーナリスト」である。新聞社、雑誌社、放送局などメディアでの経験を足場に政治家となったメディア議員の計量分析および集団的考察については、すでに佐藤卓己・河崎吉紀編『近代日本のメディア議員――「政治のメディア化」の歴史社会学』(創元社・2018年)でまとめている。その副題にもある「政治のメディア化」とは、政治が価値や理念の実現ではなく、効果や影響力の最大化を目指して展開されていく状況を意味する。その状況を体現するのがメディア議員と言えよう。意外と感じる人も多いだろうが、満洲事変から太平洋戦争までの時期の衆議院でメディア議員は全議席の3 割を超えていた。
それは注目すべき現象と言えるが、これまでメディア議員の研究はほとんど行われていない。その理由は想像できる。政治の視点で見れば、理念よりも影響力を重視する政治はポピュリズム(大衆迎合主義)であり、それを体現する議員はまともな政治家とはみなされない。ジャーナリズムの視点で、その扱いはさらに困難である。メディアに「権力の監視役」、「不偏不党」、「体制批判」を求めるなら、メディアと政治の境目がないメディア議員はグレーゾーンの存在だからである。しかし、今日私たちが目にする政治家はSNSで日々刻々と情報を発信するわけであり、その多くは理念よりも影響力を重視している。そうしたウェブ体験を経て当選した議員は、多かれ少なかれメディア議員ではないだろうか。
この「近代日本メディア議員列伝」はそうした現代政治に直結する問題意識から企画されたシリーズである。なぜこの14人が選ばれたかは各巻で説明するが、必ずしも大物政治家を選んでいない。近代日本のメディア議員としては、原敬(『大東日報』主筆)、犬養毅(『郵便報知新聞』記者)、加藤高明(『東京日日新聞』社長)、石橋湛山(『東洋経済新報』社長)など首相経験者も少なくない。そうした大物よりも、「政治のメディア化」の多様な問題点を多角的に示せるように選んだつもりである。本シリーズがメディア社会に生きる私たちの現代政治への向き合い方に役立つものとなることを願っている。