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「メディア議員列伝」への期待

有山輝雄(メディア史研究者)

文字・画像・映像などの大量複製技術を利用したメディアの登場が社会、文化などのあり方を大きく変えたことは改めて言うまでもないことだが、政治においては政治行為の演劇化をもたらす。政治家達は政治運動であろうが国会の議場だろうが、劇場の俳優のように演技することが当然のこととなる。天性として演技力にたけた人物、自らメディア活動に従事し自己演出技術などを習得した人物が政治の世界で大きな役割をはたすのである。この「メディア議員列伝」シリーズはメディアという切り口から様々な政治家たちの横断面を明らかにしようとする大胆な試みである。政治史研究、メディア史研究に大きな刺激をあたえることを期待する。

デモクラシー─総力戦、戦前─戦後の連関を問い直す

藤野裕子(早稲田大学教授)

劇場型政治、ポピュリズム――現代の政治・選挙のあり方をさかのぼれば、戦前の「メディア議員」に行き着く。明治以来、新聞と議員は密接につながっていた。デモクラシーと大衆社会化が同時に進展した大正期、マスメディアの力は有権者を動かす政治力となり、1930 年代には総力戦への動員力にもなった。そう、「メディア議員」は政治-社会の交点に位置づくのだ。世代・思想の異なる14 人の議員の評伝は、政治史・文化史を架橋し、デモクラシー-総力戦、戦前-戦後の連関を問い直す。必読のシリーズである。

政治の言葉が遠く隔たってしまった歴史的分岐点を探る

與那覇潤(評論家・元歴史学者)

かつて、あらゆる「書くこと」は政治だった。筆を執るものはみな、文字や言葉の使い手であることの誇りと、読み手の心を動かそうとする情熱に焦がれていた。しかしいま、私たちの言葉と政治の現場で語られる言葉とは、遠く隔たってしまっている。どこで間違いがあったのか。違う可能性はなかったのか。明治から戦後までの歴史に分岐点を探り、「ジャーナリスト出身」の議員たちの格闘を掘り起こす捜索の旅に期待します。

シリーズの特長

著名だが新たな像を刻める議員、典型的だが評伝の少ない議員、県紙経営型、女性、保守本流、左翼系、雑誌経営型など様々なタイプの14名を取り上げ、メディアと政治が不可分の時代に、現代政治家のモデルとも反面教師ともなるメディア政治家像を提起する。 〈教育〉〈メディア〉〈政治〉の観点から各議員にアプローチ。シリーズ全体で一体感をもって読めるよう配慮した構成。
注釈は付けずに嚙み砕いた描写を心掛けた、人物評伝ならではの読みやすい文章。
定評ある研究者が執筆陣に集結、丹念な資料探索をもとに各議員の知られざる一面を活写する。 各巻末には「著作年譜」を収録。議員の生涯と著作一覧があわせて一瞥できる。

おすすめします

こんな方に
おすすめ
◎政治学 ◎社会学
◎メディア学・マスコミ研究
◎近現代史
こんな場所で
おすすめ
◎公共図書館
◎大学図書館
◎高校図書館
2023年6月刊行
池崎忠孝の明暗
近代日本メディア議員列伝6
池崎忠孝の明暗
教養主義者の大衆政治
佐藤卓己(京都大学大学院教育学研究科教授)

『萬朝報』論説記者、『大阪時事新報』顧問としての経験を足場に政界進出したメディア議員の象徴的人物に〈教育〉〈メディア〉〈政治〉の観点から迫った画期的な人物列伝。

池崎忠孝

1891(明治24)年~1949(昭和24)年。岡山県生まれ。六高・東京帝大を卒業、漱石門下の「赤木桁平」として活動、『萬朝報』論説記者、『大阪時事新報』顧問を経て衆議院議員、文部参与官、A級戦犯容疑で巣鴨プリズンに入る。

2023年11月刊行
降旗元太郎の理想
近代日本メディア議員列伝2
降旗元太郎の理想
名望家政治から大衆政治へ
井上義和(帝京大学共通教育センター教授)

漢学者・武居用拙に民権思想を学び、『信濃日報』社長の傍ら大隈系代議士として普通選挙実現に尽力したメディア議員がいた。その知られざる生涯と激動の時代を丹念に描く。

降旗元太郎

1864(元治元)年~1931(昭和6)年。信濃国(長野県)生まれ。漢学者・武居用拙のもとで民権思想を学び、東京専門学校卒業後、『信濃日報』社長を続けながら衆議院議員当選11回。大隈系代議士として普通選挙の実現に尽力。

2023年12月刊行
中野正剛の民権
近代日本メディア議員列伝5
中野正剛の民権
狂狷政治家の矜持
白戸健一郎(筑波大学人文社会系准教授)

修猷館、早稲田から朝日新聞記者、東方時論主筆を経て総選挙8回当選。南進論を唱え、東條批判ののち自殺。華々しい言論と比類なき大衆扇動力で知られる政治家の実像とは。

中野正剛

1886(明治19)年~1943(昭和18)年。福岡県生まれ。修猷館・早稲田大学を卒業後、『東京朝日新聞』記者、『東方時論』主筆。『九州日報』社長。衆議院議員当選8回。東方会を結成し南進論を唱え、日米開戦後は東条英機と対立。

2024年1月刊行
三木武吉の裏表
近代日本メディア議員列伝7
三木武吉の裏表
輿論指導か世論喚起か
赤上裕幸(防衛大学校人文社会科学群公共政策学科准教授)

吉田茂を政権の座から引きずり下ろして鳩山一郎内閣を作り、1955年に保守合同を成し遂げ自民党を作った最大の功労者・三木武吉。稀代の政治家の生き様に光を当てる。

三木武吉

1884(明治17)年~1956(昭和31)年。香川県生まれ。東京専門学校を卒業。憲政会幹事長を務め、東京市政を牛耳るが、京成電車乗入事件で実刑判決を受け、失脚。『報知新聞』社長。戦後は寝業師の異名で保守合同を実現。

2024年3月刊行
関和知の出世
近代日本メディア議員列伝3
関和知の出世
政論記者からメディア議員へ
河崎吉紀(同志社大学社会学部教授)

自ら創刊した『新総房』で改進党系ホープとして認知され、『萬朝報』記者、『東京毎日新聞』編集長を歴任。大衆政治化を先読みした関和知にメディア議員の本質を見る。

関和知

1870(明治3)年~1925(大正14)年。千葉県生まれ。東京専門学校卒業後、『新総房』を創刊、プリンストン大学へ留学し、『萬朝報』記者、『東京毎日新聞』編集長を経て議員となる。司法副参政官、憲政会総務、陸軍政務次官を務めた。

2024年5月刊行
近代日本メディア議員列伝11
橋本登美三郎の協同
保守が夢見た情報社会
松尾理也(大阪芸術大学短期大学部メディア・芸術学科教授)

早大雄弁会、朝日記者を経て当選12回。官房長官、建設相、運輸相、幹事長を歴任したが、ロッキード事件で有罪。その橋本の演じたリベラルから保守への展開の内実に迫る。

橋本登美三郎

1901(明治34)年~1990(平成2)年。茨城県生まれ。早稲田大学卒業後、『朝日新聞』記者。潮来町長を経て衆議院議員当選12回。内閣官房長官、建設相、運輸相ののち自民党幹事長となるが、ロッキード事件で有罪判決。

2024年7月刊行
近代日本メディア議員列伝9
西岡竹次郎の雄弁
苦学経験と「平等」の逆説
福間良明(立命館大学産業社会学部教授)

貧困から早稲田に進学し、新聞・雑誌社を創業、代議士・政務次官・県知事に上り詰める。普選や婦人参政権運動からファシズムや開発政治に深入りした紆余曲折の人生を辿る。

西岡竹次郎

1890(明治23)年~1958(昭和33)年。長崎県生まれ。早稲田大学在学中に雄弁会で活躍。卒業後、雑誌『青年雄弁』および『長崎民友新聞』を創刊し普選運動に尽力。衆議院議員当選6回。戦後、長崎県知事。

2024年9月刊行
近代日本メディア議員列伝13
田川誠一の挑戦
保守リベラル再生の道
山口仁(日本大学法学部准教授)

朝日記者・労組委員長を経て当選11回。日中国交正常化に尽くし、ロッキード事件で新自由クラブ結成、第2次中曾根内閣自治相。金権政治打破を訴えたメディア議員の生涯。

田川誠一

1918(大正7)年~2009(平成21)年。神奈川県生まれ。慶應義塾大学卒業後、『朝日新聞』記者となり同社労組委員長。新自由クラブ結成に参加、自民党連立内閣(第2次中曾根内閣)で自治相、衆議院議員当選11回。

2024年11月刊行
近代日本メディア議員列伝8
石山賢吉の決算
ダイヤモンドの政治はあるか
佐藤彰宣(流通科学大学人間社会学部専任講師)

経済雑誌『ダイヤモンド』を1913年に創刊、一代で現在に至るダイヤモンド社を築いた石山賢吉。衆議院当選1回で公職追放となった軌跡にメディア議員の典型を探る。

石山賢吉

1882(明治15)年~1964(昭和39)年。新潟県生まれ。慶應義塾商業学校卒業後、『実業之世界』記者。経済雑誌『ダイヤモンド』を創刊。東京市会議員を経て衆議院議員となるが公職追放。日本雑誌協会初代会長。

2025年2月刊行
近代日本メディア議員列伝12
米原昶の革命
不実な政治か貞淑なメディアか
松永智子(東京経済大学コミュニケーション学部准教授)

coming soon

米原昶

1909(明治42)年~1982(昭和57)年。鳥取県生まれ。旧制一高在学中に社会主義へ傾倒、中退して地下活動。終戦後日本共産党に入党し『赤旗』記者を経て衆議院議員(当選3回)。国際機関誌編集長など歴任。

2025年3月刊行
近代日本メディア議員列伝10
神近市子の猛進
婦人運動家の隘路
石田あゆう(桃山学院大学社会学部教授)

coming soon

神近市子

1888(明治21)年~1981(昭和56)年。長崎県生まれ。女子英学塾在学中に青鞜社参加、『東京日日新聞』記者となり、大杉栄を刺傷して著名に。戦後は民主婦人協会を設立、左派社会党で売春防止法成立に尽力。

2025年5月刊行
近代日本メディア議員列伝14
上田哲の歌声
Why not protest ?
長﨑励朗(桃山学院大学社会学部准教授)

coming soon

上田哲

1928(昭和3)年~2008(平成20)年。東京府生まれ。京都大学卒業後、NHKに入局。ポリオ生ワクチンのキャンペーンを指揮した。労組委員長として「NHKの闇将軍」の異名をとる。参議院議員を経て衆議院議員当選5回。

2025年7月刊行
近代日本メディア議員列伝1
大石正巳の奮闘
自由民権から政党政治へ
片山慶隆(関西外国語大学英語国際学部教授)

coming soon

大石正巳

1855(安政2)年~1935(昭和10)年。土佐藩(高知県)生まれ。立志学舎で学び、自由民権運動に従事。『自由新聞』社主、駐朝鮮公使、農商務大臣を歴任。憲政本党、立憲国民党などで幹部を務めた。衆議院議員当選6回。

2025年9月刊行
近代日本メディア議員列伝4
古島一雄の布石
明治の俠客、昭和の黒幕
戸松幸一(株式会社もくようしゃ代表)

coming soon

古島一雄

1865(慶応元)年~1952(昭和27)年。兵庫県生まれ。杉浦重剛に私淑し『日本人』『日本新聞』『萬朝報』等の記者として活躍。立憲国民党および革新倶楽部に所属し普通選挙法確立のために尽力、のち貴族院勅選議員。

2026年1月刊行
近代日本メディア議員列伝15
近代日本メディア議員
人名辞典・付総索引
河崎吉紀(同志社大学社会学部教授)

coming soon

全巻構成

1
片山慶隆
『大石正巳の奮闘自由民権から政党政治へ
2
井上義和
『降旗元太郎の理想名望家政治から大衆政治へ
3
河崎吉紀
『関和知の出世 政論記者からメディア議員へ
4
戸松幸一
『古島一雄の布石明治の俠客、昭和の黒幕
5
白戸健一郎
『中野正剛の民権狂狷政治家の矜持
6
佐藤卓己
『池崎忠孝の明暗教養主義者の大衆政治刊行済み
7
赤上裕幸
『三木武吉の裏表輿論指導か世論喚起か
8
佐藤彰宣
『石山賢吉の決算ダイヤモンドの政治はあるか
9
福間良明
『西岡竹次郎の雄弁苦学経験と「平等」の逆説
10
石田あゆう
『神近市子の猛進婦人運動家の隘路
11
松尾理也
『橋本登美三郎の協同保守が夢見た情報社会
12
松永智子
『米原昶の革命不実な政治か貞淑なメディアか
13
山口 仁
『田川誠一の挑戦保守リベラル再生の道
14
長﨑励朗
『上田哲の歌声Why not protest?
15
河崎吉紀
『近代日本メディア議員人名辞典・付総索引』
※刊行順とは異なります。

『近代日本メディア議員列伝』
刊行にあたって

佐藤卓己

 メディア議員とは「メディア経験をもつ代議士」あるいは「議席をもったジャーナリスト」である。新聞社、雑誌社、放送局などメディアでの経験を足場に政治家となったメディア議員の計量分析および集団的考察については、すでに佐藤卓己・河崎吉紀編『近代日本のメディア議員――「政治のメディア化」の歴史社会学』(創元社・2018年)でまとめている。その副題にもある「政治のメディア化」とは、政治が価値や理念の実現ではなく、効果や影響力の最大化を目指して展開されていく状況を意味する。その状況を体現するのがメディア議員と言えよう。意外と感じる人も多いだろうが、満洲事変から太平洋戦争までの時期の衆議院でメディア議員は全議席の3 割を超えていた。

 それは注目すべき現象と言えるが、これまでメディア議員の研究はほとんど行われていない。その理由は想像できる。政治の視点で見れば、理念よりも影響力を重視する政治はポピュリズム(大衆迎合主義)であり、それを体現する議員はまともな政治家とはみなされない。ジャーナリズムの視点で、その扱いはさらに困難である。メディアに「権力の監視役」、「不偏不党」、「体制批判」を求めるなら、メディアと政治の境目がないメディア議員はグレーゾーンの存在だからである。しかし、今日私たちが目にする政治家はSNSで日々刻々と情報を発信するわけであり、その多くは理念よりも影響力を重視している。そうしたウェブ体験を経て当選した議員は、多かれ少なかれメディア議員ではないだろうか。

 この「近代日本メディア議員列伝」はそうした現代政治に直結する問題意識から企画されたシリーズである。なぜこの14人が選ばれたかは各巻で説明するが、必ずしも大物政治家を選んでいない。近代日本のメディア議員としては、原敬(『大東日報』主筆)、犬養毅(『郵便報知新聞』記者)、加藤高明(『東京日日新聞』社長)、石橋湛山(『東洋経済新報』社長)など首相経験者も少なくない。そうした大物よりも、「政治のメディア化」の多様な問題点を多角的に示せるように選んだつもりである。本シリーズがメディア社会に生きる私たちの現代政治への向き合い方に役立つものとなることを願っている。

【略歴】 1960年、広島県生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。東京大学新聞研究所助手、同志社大学文学部助教授、国際日本文化研究センター助教授などを経て、現在は京都大学大学院教育学研究科教授。専攻はメディア史、大衆文化論。2020年にメディア史研究者として紫綬褒章を受章。著書に『大衆宣伝の神話』(ちくま学芸文庫)、『現代メディア史』(岩波テキストブックス)、『『キング』の時代』(岩波現代文庫、日本出版学会賞・サントリー学芸賞受賞)、『言論統制』(中公新書、吉田茂賞受賞)、『八月十五日の神話』(ちくま学芸文庫)、『輿論と世論』(新潮選書)、『ファシスト的公共性』(岩波書店、毎日出版文化賞受賞)、『負け組のメディア史』(岩波現代文庫)など多数。

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