27.「コンチクショウ!!!」

読んでいるとボロボロと泣いてしまうマンガがある。
クソぅクソぅと言いながら読んでしまう。
負けないぞ、これぐらいじゃあ泣かないぞ……
そう思いながら読んでしまうマンガがある。
読むことが戦いだなんて、思ったこともなかった。
押し寄せてくる感覚があまりに真に迫っているものだから、
なおさら立ち向かいたくなって、抵抗したくなって、
くそぅ、くそぅと言いながら読んでしまう。
どうせ…とか、
所詮…とか、
そんな気持ちにばかり普段出会うものだから、
もはや失くしてしまったコンチクショウ!!!
それを思い出させるマンガがある。
コンチクショウ!
負けるもんか!
「リアル」はそんなマンガである。

たまにはマンガの紹介をしてみてもいいかな…と思い書いてみた。読み終わった瞬間の新鮮な気持ちで書くとこうなった。コンチクショウ……ひょっとしたら放送禁止用語のみならず、業界禁止用語かな?「この野郎!」とか、「コンチクショウ!」とか、お行儀の悪い言葉を表(リアル)の世界で聞くことは本当に少なくなったような気がする。直接相手に投げつけるのでなく、「KYちゃう?」(※注1)「うざ〜」とか、まわりで揶揄(やゆ)する言い方が増えた。もちろんそれは、ネットで「死ね!」「ボケ!」「カス!」「クズ!!」という言説が充満し出したことと無関係ではないのだろう。

ただ「コンチクショウ」は、相手に投げつけるだけではなくて、自分自身に対して鼓舞する意味合いも含んでいる言葉である。少なくとも僕はそう思って、時折自分自身に対してこっそり使っている。コンチクショウ、コンチクショウ……これくらいで負けてたまるか、クソう、クソぅ、今に見ていろ……流行らない熱血青春スポ根モノ。矢吹ジョー(※注2)や星飛雄馬(ほしひゅうま)(※注3)やタイガーマスク(※注4)が教えてくれたのは、今日もてはやされる、その散り際の美学などではなくて、叩かれても殴られても踏みにじられても這い上がろうとする、コンチクショウではなかったか。

その意味で、レジリエンス(※注5)やハーディネス(※注6)などという、洋物のお行儀の良い心理学用語に替わるものとして、今の若者にコンチクショウを捧げたい。無気力な仮面の裏に、彼らはまだ熱い心を持っているはずだから……。

注1
「空気(KuUki)読めない(Yomenai)」の意。KY語とかKY式日本語と称される、ローマ字表記の冒頭のアルファベットで略した言葉。KYはその代表。
注2
本名?矢吹丈。梶原一騎原作の漫画「あしたのジョー」の主人公で、宿敵力石徹との死闘は有名。
注3
やはり梶原一騎原作の漫画「巨人の星」の主人公。父の星一徹との確執、花形満や左門豊作といったライバル、伴宙太との友情など単なるスポ根にとどまらない人間ドラマが印象的だった。
注4
やはり梶原一騎原作の漫画「タイガーマスク」というプロレスマンガの主人公。孤児院出身で悪役プロレスラー養成所である「虎の穴」出身の悪役レスラーと、孤児院に寄付する足長おじさんとしての伊達直人の二つの顔を持ち、葛藤する姿が魅力的だった。
注5
Resilience「回復力、復元力、弾性力、立ち直り」といった意味で用いられる「困難で脅威的な状況にもかかわらず、うまく適応する過程や能力、結果」を指す心理学用語。
注6
ハーディネス:Hardiness「頑健さ、強靭性」といった意味を指す心理学用語。「高ストレス下で健康を保つ人々が持つ性格特性」とされる。