25.居場所

居場所がない、居場所がない
家の中にも居場所がない
学校にも居場所がない
どこにいてもここじゃないと思う
自分の居場所はここじゃない

それでも僕は探しに行かない
面倒くさいから近所に出るだけ
行ったら戻り、出たら帰る
居場所がない、居場所がない
どうせこの世に、僕の居場所はない


最近の学生たちの間では、「居場所」探しが大流行である。自分のために用意された、お誂えの居場所などあるわけないのだが、それを言っちゃあ身も蓋もないので、さしあたり黙っていることにしている。そもそも、自分が居なくても社会はあったし、自分が居なくなっても社会はあるのだ。もとより、自分なしで上手くいっていた社会に割り込んで生まれてきたのだから、我々は皆、生まれた時から余計モノなのだ。そんな世の中に居場所を探すこと自体、それこそ無駄というものだ。空いたところに割り込むか、人も行かないような場所に落ち着くか……いずれにしても、自分の居場所は自分で探すしかない。

それにしても、日本人はつくづく農耕民族だと思う。居場所がないと言いながら、決して漂流したり、旅をし続けたりしない。居場所を捜し求めて、思えば遠くに来たもんだと、流れ流れて異国にたどり着く、そんな偉人伝は聞いたことがない。どれほど遠くに出掛けてみても、結局は故郷の母のもとに帰り着く……そんな物語ばかりがもてはやされる。むしろ近頃は、生まれてから死ぬまで地元の1マイル以内で生活し続ける、「1マイル族」が流行りだとも聞く。できるだけ長く一所に留まって、その場所が馴染みになるまで、自分色に染まるまで、根気よく居続けようとしているのかも知れない。

ひょっとすると、RPG(※注1)でバーチャルな世界を旅してるから、グーグルアース(注2)で世界中の鳥瞰図を眺めていられるから、わざわざ出掛けてみる必要もないと見切っているのかしら。アボリジニの聖地エアーズロック(注3)には確かに大地のパワーがあるし、カナディアンロッキーのネイティブアメリカンの聖地レイクルイーズはスピリチュアルな場所だ。エジプトのピラミッドは驚異の遺跡だし、冬の古都京都は冷涼で美しい。

自らの身体で確かめること……実際に肌で感じること……中田英寿ではないけれど、せっかくこの広い地球に生まれたのだから、居場所にしがみつく前に、あちこち見て回らない?

注1
ロール・プレイング・ゲーム(Role Playing Game)の略。ドラゴンクエストなど、主人公になりきって冒険や探検をするゲームの総称。
注2
検索エンジンGoogle社が提供する地図ソフト。世界中の衛星写真が高解像度で見ることができ、最近は写真のみならず動画も多数搭載されるようになった。
注3
オーストラリア大陸の中心部にある、比高335m、周囲9.4kmの巨大な一枚岩。オーストラリア原住民アボリジニの聖地として、世界遺産にもなっている。