17.おじゅけん
おじゅけんが始まった。
今年こそ、無事合格を果たして欲しい。
従順さ、
基本的な生活の自立、
排泄の自律、
特に難しいのは自炊できるかという課題。
卵焼きではダメだから、五目飯を特訓したけど、
今年の課題は揚げ物らしい……コロッケでも特訓しようかしら。
掃除、洗濯、炊事、衣服の片付け、整理整頓……
施設入所のおじゅけんの壁は厚い。
おじいちゃん、頑張ってきてね。
30年、いや20年後には、老人人口が爆発的に増え、小中高大の学校の受験がなくなって浪人がいなくなる代わりに、老人ホームや施設の入所試験が行われるようになり、施設浪人たち、すなわち老人生(ローニンセイ)が現れるかも知れない。設備やスタッフが充実した良い施設は、倍率が20倍にも跳ね上がり、裏口入所や縁故入所、情実入所がはびこり、「我々にも入れる施設を!」と施設入所にあぶれた老人たちが、街頭でデモ行進を始めるかも知れない。『良い施設の見つけ方』がベストセラーになり、ミシュランが『三ツ星施設』を発行し、施設入所試験の有名施設別問題集、通称赤本ならぬ白本が本屋に積まれ、雑誌『朗人』や『Retired』では「私の隠れ家施設」特集が組まれるようになるかも知れない。
老人が大衆化…いや大衆が老人化し、老人格差も拡大する。勝ち組は豪華な施設で余生を悠々自適に暮らし、負け組みは家庭で息子や娘、孫たちにいびられこづかれ邪険にされて、そのうち家出してホームレス浪人ならぬホームレス老人になるかも知れない。時にその生活を赤裸々に綴った『ホームレス老人』がベストセラーになったり、かつての売れっ子漫画家が『ホームレス日記』を描いてリバイバルしたりするが、しょせんそれも一時のあだ花でしかない。
かつてヒルズ族と呼ばれていた人たちは、停電時の高層ビルの不便さを嫌って丘(ヒルズ)を降り、電動車椅子での移動が便利な広大な平屋御殿に住むようになり、「地衣(地位)類」と呼ばれるようになる。ゴルフ場は転売されて、こうした地衣類の豪邸が並び立つようになり、とりわけゲストハウス付18番ホール跡は「十八番(おはこ)」と呼ばれてプレミアがつく……。 そんな時代が来たら、僕はどうしよう……あ、そうだ! 親戚でもなんでもない高石ともやの向こうを張って、「老人生ブルース♪」でも歌おうっと。