9.夢見る頃を過ぎたら
どうせ叶うことなんてないから
夢を見ない
明日生きていけるかどうかも分からないのに
夢はない
今日もまたかろうじてネットカフェで過ごすだけのお金しか残ってないのに
夢などない
夢は見られる人のためだけにあるもので、
何の目標も、お金も、気力もない私に
夢などあるものか
最近、夢を見られない人が増えたという。大人だけじゃなく、中高生も将来に夢を抱かなくなった。代わりに漠然とした不安、鬱積した不満、虚無感、自己不全感……夢を見られないのはなぜだろうと、ずっと考えていて思い当たったことがある。
夢というのは現状を全てひっくり返して、負け組みが一気に勝ち組になるような、一発逆転への願望だということ。夢の懸賞金……夢の万馬券……夢のような結婚……。社会がハチャメチャなときは、昨日の敗者が今日のヒーローになるみたいな、そんな一発逆転はあるかもしれないが、こう落ち着いてしまってはシンデレラストーリーは文字通りの夢物語。テレビで取り沙汰されるヒルズ族は遠い別世界の住人で、少々努力したところで自分には何も起こりはしない。自ら何かを始めるのもダルいので、神頼み。『へびとかげぎす』(※注)みたいに星に願いをかけたら、一発逆転の不幸が降り注ぐことはあるかも知れないが、現実はマンガとは違う。昨日と同じ日々、明日と同じ日々……。「どーせ私に一発逆転のチャンスなんてめぐってくる筈がない。」「どーせ努力したって無駄無駄。」どーせ、どーせ、どーせ……どーせいっちゅうねん!! かくして逆切れした若者たちは、野犬の首に針金を巻いたり、道端のゴミに放火したり、学校に「子どもを殺す」と脅迫電話を入れたりするのだ。
ヒッピーを知る世代としては、夢も希望も家財道具も持たずに日々をしのいでいるネット難民は、ある種憬れの対象なのに、彼らが一様に不幸そうで不満そうで孤独なのが不思議で仕方ない。同じように暮らしているネット難民同士が、決して連帯しないのも奇妙だ。ジョン・レノンは彼らを見て何と言うだろう……イマジン? ヒマジン(暇人)? ヒマンジ(肥満児)? 不満ジャネーノ!?
- 注
- 古谷実のマンガ。ギャグ漫画『行け! 稲中卓球部』でブレイクしたが、『ヒミズ』以降、現代的な若者を代表する、面倒くさがりのダメ人間を主人公にした作品に路線変更。現在、静かなブームを呼んでいる。